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ShortNovel 2000年2月日記に掲載

美少女艦長D

人はスピードを追い求め、可能な限り速いマシンを造り出す。
しかし、加速と同じくして、減速もまた、非常に重要であることを忘れてはならない。

「制御不能! プロポーショニングバルブにA7の破損!」
「ツインキャリパーの内部温度上昇中! 止まりません!」
「シェイク発生! アンチバイブレーション緊急作動!」
「保蛇できない!」
「コーナリングフォース急激低下! 対スピン体制をとれ!」
「バキュームブースタ停止! そのほかの機構もすべて停止しました!」
 6人のオペレータは10秒の間息をつく暇を与えぬ猛ラッシュで、次々と現状報告をした。何の事やらさっぱりな単語の羅列ではあるが、どうやら「もう、止まれません」と言っているらしい。
 バカにするな、そんなことくらい報告されなくても見ればわかる。しかし、このまま何もせずにいれば、あと数秒もで確実に死に至る。
「全機構の強制冷却。3秒間の冷却と、2秒の制動を交互に!」
 バカどもに指示を出してみる。どうなったってかまわない。投げやりなこの艦長は頭の悪そうな女の子だ。乗務員は皆、高校生らしい制服を着ている。
「ちょ、ちょっと待ってください! そんなことしたらコイツの寿命が縮みますよ!」
 派手に操舵パネルを叩きながら叫ぶ男子生徒。無理もない。
「うっさいわねぇ、黙って私の指示に従ってればいいのよ!」
 そして、3秒の冷却と2秒の急制動が試される。ガックンガックンと機体がが揺れ続ける。このアホみたいなアイデアでスピンしないですんでいるのは、操舵士のGが居たからだということを、誰も知らない。
「あんたら、止まる気あるのぉ!?」
 ちっとも減速する様子を見せないのに苛立ててバカ艦長が叫ぶ。乗組員の誰もが内心ぶち切れそうになっていたなどとは言うまでもない。
「…そこ、左です…」
 ぼそっとつぶやく声。レーダーをずっとモニタしているQだ。驚くなかれ、彼女(彼ではないのだ!)は、レーダー士特殊第2大型技術技能試験をわずか10歳でクリアしてしまった最年少記録の持ち主だ。そして、彼女は今中学2年生、14歳。
「…あのねぇ…んじゃ、急速左旋回やっといてぇ。」
 もうちょっと早く言いなさいよ…どうせアンタのことだからずっと前から知ってたんでしょ? なんて愚痴は言わないのが艦長のわずかながらの長所かもしれない。
「出来るか! アホ!」
 誰かがキレた。そりゃそうだ。これだけめいっぱいブレーキングしている最中に急旋回したら、誰が考えたってスピンするに決まっている。
「それをやるのがアンタらの仕事でしょ!」
 と言うか言わないかのうちに、迫ってきた物体に接触した。
「「「「ぐわーーー。」」」」
 やっぱりね。と、艦長が最後につぶやいた。みんな闇の中に放り出された。


「ごくろうだった。シミュレーション第一課程はこれで終了だ。」
 館内放送が響く。真っ暗だった部屋に明かりがつく。
 おとなしくなっていた生徒たちは、みな艦長に一瞥くれてやりながら教室を去っていった。
「艦長役のDは残れ。」
 冷たい声。
「ええっ、あたし? なんであたしなのぉ?」
 バカかお前は。

 教室に一人残されたDは、柄にもなくしょんぼりとしていた。今日はまっすぐ帰って、最近私的お気に入りのアッ君(どうやら、芸能人らしい)のライブをチェックする予定だったのに! とブツブツ言っている。
「D、今回の演習の反省点は?」
 教室に講師の声が響く。
「…あたしは、カンペキだったわよ。あいつらがちゃんと止まらなかっただけで」
 お前はこの期に及んでまだそんなことを…。きっと同じ組で演習をした彼らならそう突っ込むところだろう。
「では、初速をこの値に設定したのは誰のアイデアだ?」
「あたしです。」
「そして、この制動システムを決めたのは?」
「それも、あたしです」
「彼らを指示していたのは?」
「全部、あたしです」
「で、この責任は?」
「……んもーーわかったわよ! はいはい、あたしがぜぇ〜んぶ悪いのよね。ふんっ。大体、こんな試験何に役に立つのよ! 7.56パーセクも離れたとこ行くのに、亜光速でって思うのが普通よ! ったく。こんなボロい設定で空を飛ぼうなんて、頭悪いんじゃない?」
「……」
 Dはこの沈黙を誤解し、勝利を確信した。へっへーーん、あたしの勝ちねっ、とばかりに左手を腰にあて、右手人差し指で鼻面をぐしぐしっとこすった。
「では、D、本日で退学だ」
 違った。
「ほえ?」
 バカはやっぱりバカだった。
「なんでよぉ」
 わからんのか。
「なんとか言いなさいよぉ」

 誰も答えず、誰も見送ってくれないまま、Dはこの学園を去っていった。
 そのころ、同じ乗組員だった全員は、ドンチャン騒ぎだった。

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