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ShortNovel 〜2000年1月日記に掲載

危機管理

「この結果、どう思う?」
 大型の汎用機に囲まれた時代遅れのコンピュータルームで、白衣に身を包んだ二人の男が神妙な顔つきをしている。
「どう考えても奇妙ですね。ほら、ここ……ええ、そこです。そこの瞬間周波が2年前のあの日ときれいに一致するんです。これは何かの前兆と考えるのが自然……いや、そうとしか考えられないと思うんです。」
 そうして二人は再び目を閉じ、眉をひそめる。
 事の起こりは小一時間ほど前のことだ。この、広さにしてテニスコート4つ分くらいの部屋に隙間なく据え置かれた巨大コンピュータシステムには、全世界のネットワークから毎秒数ギガビットという単位で情報が送られてくる。その途方もないデータを、この馬鹿でかい棺桶(この仕事に従事する人々は、このコンピュータのことを決まってそう呼ぶ)はウンウンとうなり声をあげながら処理し、また別のコンピュータに結果を吐き出す。
 先の二名は、そのコンソールを眺めながら、世界で、いったい何が起きたのか、何が起ころうとしているのか、そして、何が引き金になったのかをずっと、考えているのだ。
 1時間前、棺桶はコンソールに「Fault Transaction」という赤い警告メッセージとともに、20分間エラーログを吐き続けた。その日偶然警戒要因だったA氏は、そのエラーログを収拾するのにさらに30分の時間を要した。ちなみにA氏はこの施設の中でも屈指の技術者である。そのA氏が、30分も格闘する姿を、おそらく同施設に勤める他の技術者は、初めて目の当たりにしたことだろう。
 まだ右も左もわからない新人でも何か重大な問題が発生したことを理解した。
 A氏はすぐに、B氏を呼びつけた。B氏はA氏の元で働く所員のなかでも特に優秀な部下だ。棺桶の吐き出すデータを分析・解析して、そのとき必要としている情報を作り出すことに特に長けていた。
 A氏はまず、棺桶が吐き出した100ギガバイト以上の低レベルデータを統合・抽象化し体系づけた。そしてB氏がそれらを分類列挙し、類推した。その時間がおよそ10分。そして得られた結論は先の通りだ。
「しかし、どうしてこの時期にこの現象が? 今までのシミュレーション結果ではこの先120年間は問題は発生しないということだったのに」
「事実は事実だ。これから我々がなさねばならないことを考えよう」
「はい。」
 そうは言ったものの、二人はどうにも煮詰まっていた。今までにない大規模なフォールトトランザクト。おそらくこれを見て最高の結論を導き出せる人間は存在しないだろう。大半の技術者ならば、そのデータの総量を見て嘆きわめくか、一応解析を試みて匙を投げるかのどちらかだろう。
 この二人はそんな物理的に考えて処理しきれないようなデータを、わずか10分で情報に変えてしまったのだ。それだけでも十分に人知を越えている。そんな二人ならば、あるいは結論を導き出せるかもしれない。
「困りましたね。これは。何ともはや、打つ手がないじゃないですか」
 B氏の口から、ついに諦めとはっきりわかる言葉が出た。
「いや、何かあるはずだ。君にならわかるかもしれん。だからこそ、ここに呼んだんだ。これは我が国……いや、地球規模、宇宙規模の大問題だ。早急に対策を講じる必要がある。」
 A氏は焦りの表情を隠せないでいた。このログを見る限り、時間的猶予はほとんど残されていない。せいぜい、あと数時間、最悪、数十分と言ったところだろう。
 二人は、再び腕を組んで唸り始めた。
 棺桶のうなり声と、二人のうなり声が、不気味にこだまする。
「あっ!」
「そうかっ!」
 時を置かずして二人は同時に叫んだ。彼らの表情は……口尻をつり上げ、ニヒヒと笑っている。相当の名案が思いついたに違いない。
「……アレ…、ですよね。アレ。」
「……うむ、アレしかないだろう。」
 遠巻きに二人の様子を観察していた所員にどよめきがおこる。今までうなり声以外の物音が聞こえなかった部屋の方々から、すでに歓声がわき起こっている。中には互いの手に手を取り合って大はしゃぎで喜んでいる所員の姿もある。童心に返ったようにぴょんぴょんと飛び跳ねる姿は幾分滑稽である。
 そして、A氏、B氏は叫んだ。
「そう、地球の危機。これは由々しき問題だ! だから、なかったことにしよう!」
 そういうと、二人はエラーログを圧縮し、こてんぱんに縮めた後で、バイナリシュレッダーにかけた。
「これでよし。総員、通常体制にもどってヨシ! 今日もいいことあるぞ!」
 誰もが、予想だにしなかった結論。
 しかし、地球は救われたようだ。喜ぶべき事ではないか! 天晴れ! 二人の活躍は、おそらく後生に伝わることなく消滅するだろう。今日が、地球最後の日なのだから。

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