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ShortStory 2000年1月日記掲載

価値

「…あの、その1万円のネックレスください」
「はい、これですね?」
「ええ、それです。それこそわたしが求めていた金のネックレス」
「金なのに1万円とは、どうですか。とてもお求めやすいでしょう?」
「そう、そうなんですよ。だからこそわたしはそれが欲しいのです」
「ダメです。」
にべもなく断られた青年はがっくりと肩を落とす。しかし、すぐに反撃に出た。
「Why なぜ!?」
「あなたには、このネックレスの本当の価値というものが、お解りになりますか」
「…本当の価値……ですか」
「歴史に名のある有名な金工が、1000年を越える悠久の時を経て、その弟子たちに一子相伝によって受け継いできた技術によってのみ完成されるという、この金のネックレス」
「…ほぅ…。そんなに素晴らしいものだったのですか」
「…そうです。本来、その奥義を用いなければ、これはただの紙切れなのです」
「…は?」
「…鈍い人ですね。」
「それは、つまり、イミテーションと言うことですか」
「…私からは何も申し上げられません」
そのまま口をつぐんだ店員に、彼は言う。
「いいんです。その輝きをわたしは信じます。だから、それをください。わたしにお譲りください」
「ダメです。」
彼は思う。これは新手の販売手法なのだ。そうだ、ネガティブ・アプローチの変形なのだと。
「…どうしてもダメなのですか…」
「どうしてもダメです。」
「ははぁ、なるほど。あなたは私の購買意欲を煽るだけ煽って、その反応を楽しんでいるのですね。」
「そうです。」
かすかに口尻をあげる店員。これではどちらが客かわからない。青年は店員の愛想のない対応に辟易し、何とか話題をすり替えようとした。
「…ところで…」
「…オチはないし、何も考えていません。」
「この話のオチは? 何か考えているんですか…って、どうして先に答えるんですか」
「…いや、そう質問されると思ったので」
「…じゃあ…」
「そうです。もうこれでお終いです」
「このまま終わるんですか? って、どうしてまた、先に答えるんですかっ!」
「だから、私はあなたがそう質問すると思って…」
その後、数時間にわたって彼らの押し問答が続いたが、予想違わず店員の方が一枚上手であった。

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